京都水盆と琵琶湖疏水KYOTO BASIN & LAKE BIWA CANAL
KYOTO BASIN & LAKE BIWA CANAL
A City’s Growth with Water
京都の地下には膨大な水が眠っている。盆地を囲う山々に降り注いだ雨や雪解け水が多量の地下水として蓄えられているのだ。関西大学の楠見晴重教授の調査によると、その水量は琵琶湖の水に匹敵する211億トンにも及ぶとされ、楠見氏はこれを「京都水盆」と名付けた。地層の浅いところに蓄えられた地下水は掘り出すのも容易であったため、古くから数多くの井戸が掘られ、京都の人々の生活を潤した。
今から1300年ほど前、平安京が建てられる際に四神相応の理想的な地形として選ばれた京都の盆地は、しかしながら、夏は暑く、冬は底冷えのする厳しい気候で知られる。そのうえ、北側を囲う山々から南の平地に向けて強い高低差があるため、街では川の洪水や氾濫が多発し、決して住みやすいとは言えない土地であった。そんな過酷な都であったが、豊富な水資源には恵まれ、多様な文化が形成された。
豊富な地下水の影響は食文化に色濃い。茶や和菓子、出汁、お酒、豆腐、湯葉など、京都で名高い食文化は数多くあるが、そのどれもが簡素かつ繊細で、それ故に、水の良し悪しが際立ってくる。大地に濾過された高純度の地下水が緻密な味わいを支えたのだ。明治23年創業の「大徳寺京豆腐 小川」を訪ねた。4代目の小川智彦氏が店主を務めるこのお店では、地下水から作られた多様な豆腐を味わうことができる。
店先で揺らめいている豆腐が美しい。京都では木綿豆腐のことを「白豆腐」と呼ぶそうだが、その名の通り、一般的な木綿豆腐に比べて白の純度が高い。出来立てを直方に切られた豆腐は、地下水が循環する清浄な水槽の中に置くことで鮮度を保つ。90%近くが水から成る豆腐を作るにあたって質の良い水は不可欠であり、地下水が枯れたら店を畳む豆腐屋もあったと聞くが、智彦氏は「豆の方が大事だよ。」と笑った。
かつては井戸から汲まれた地下水が飲料水として使われていたが、現在は疏水を通じて琵琶湖から運ばれた水が京都の上水源である。地下水は周囲の環境や気候の影響を受けやすく、渇水や汚染といった危険を常に孕んでいる。第二疏水が建設され上水道が整備されたことによって、安定した水の供給が可能となった。また飲料水のみならず、寺院や庭園の池水や通り沿いの流れとして街の景観にも潤いを与えている。
昨今、ヒートアイランド現象への対策として都市部で注目を集めている「打ち水」も京都に馴染み深い風習である。しかしながら京の人々にとって、打ち水は単に涼を取る手段には止まらず、土埃を抑え、来客を迎える際の心遣いや、玄関を清める儀礼的な意味合いが含まれるのだという。京都で育まれた文化は今や日本文化の骨子といっても過言ではないが、形式ばかりでなく情緒や心意気までも受け継いでいきたいものである。
清らかに流れる水のなかに、
古都の歴史と風情を感じます。
※データは検体場所・時期によって個体差が生じます。
※地図出典元:国土地理院 電子地形図(タイル)
参考文献
『京都 水ものがたり 平安京一二〇〇年を歩く』(淡交社) 平野圭祐 著
『琵琶湖疏水記念館 常設展示図録』 京都市上下水道局 制作/発行
「打ち水文化研究所」https://www.uchimizu.jp/archive/04/bunka.html